宝泉ヒッピー☆ショートストーリー

「宝泉ヒッピー」は
ヒノデカニのインスタライブ
=カニスタライブの企画で
製作しているショートショートです。
(生放送内で朗読)


放送済みの物語は
こちらにストックしています。

「カニスタライブ」は
3週間おきの土曜日の21:00より
Instagramで放送しているので
聴いて視てくださいね!

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宝泉ヒッピー

■第1話  薄緑色のジャージ(アラタのEP1)   
■第2話  偶然は自分で作る (サキのEP1)
■第3話  戦うって誰とだ? (アラタのEP2)
■第4話  リアルじゃない思い出 (サキのEP2)
■第5話  選ばしものじゃなくていい(アラタのEP3)
■第6話  見知らぬ彼女 (サキのEP3)
第7話  7月2日 インスタライブで放送予定  

 
太田の街を舞台に展開される物語です

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[第1話] 薄緑色のジャージ(アラタのエピソード1)

 

「こっちですよー。
ここに2列に並んでー」

 

見知らぬ男が 叫んでいる。

それに従い、列を作るのは

薄緑色の ジャージを着た人たち。


 「一体何者なんだ、こいつらは」

と、
他人のことのように

つぶやいてみるけれど

薄緑色の ジャージを着ているのは
自分だって 同じじゃないか。


そうなんだ。

いつもと変わらない 朝だった。

いや、まるっきり変わらない
ってわけじゃないかな?

 

母親が珍しく用意してくれた朝食。

でも、それを 断った。

「ごめん!朝食はいらないよ。
細谷の駅まで自転車で行くから。
いつもより 早く出なきゃ
いけないんだ」

アラタの職場は
太田駅に ほど近い場所にある。
いつもは、自宅から車で通っている。
そのため、
通勤に 東武線を使うことは
ほとんど ない。


仕事が終わったら、
彼女と会う約束をしていた。

太田駅の北口で 午後6時。

どうやら、
買ったばかりの車を
見せびらかしたい らしい。

彼女の車の助手席は

居心地がいいとは
決して 言えないんだけどね。

意外と 強引な運転で
ハラハラさせられるから。


ま、いいや。

一緒にいられることが 嬉しいことには

違いは ないんだからさ。

アラタは
にやけた顔で 自転車をこぐ
自分を想像した。

なんだか、急に恥ずかしくなる。

 

 

と、まあ
そんなことをあれこれ思いながら
自転車をこいでいた。

いや、
そのはずだった。


 

 

それからの記憶が どこにもない。
まったく 見当たらないんだ。

事故にでもあったのか?
うーん、
怪我をしているわけじゃ ないようだな。


 

今、何時だ?
そして、
ここはどこ?

薄緑色の ジャージを着た人たちの数が
さっきよりも 増えたような気がした。

ざっと 数えて 100人くらい

という感じだろうか。

 

 

「はーい、列を乱さずに ゆっくり進んでください。
もうすぐ受付が 始まりますよー」

と、さっきの 係員とおぼしき男性の声。

 

 

受付って何?
なんなんだよ!

 

腹減ったなー。

朝めし、
やっぱり食べてくるべき
だったよなー。

何気なく

隣の人が着ている ジャージの

右胸の文字に
目をやる。


アラタは
自分の目を疑った。

 

え?
嘘だろう。
一体、なんで!?。



右胸のプリントの文字。

いや、よく見ると
プリントではなく
きちんと刺繍が 施されている。

 それは

「宝泉ヒッピー」
という文字だった。

 

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 [第2話] 偶然は自分で作る(サキのエピソード1)

 

サキは
バックミラーに映った
自分の顔を 覗き込んだ。

これから、
ある犯行に
臨もうとしている自分が
ここにいる。

いや、
実際は そんなに大それた事を

するわけじゃ ないのだけど。

通報されてもおかしくない
そんな顔になってはいないか
少しだけ心配になる。


サキには
ひとつ年上の彼氏がいる。
「偶然」ってやつが、
どこからか 連れてきて
付き合うことになった人だ。

その彼と
今夜 会う約束をしている。

「車で迎えに行くから、
通勤は電車にしてね。
北口駅前に6時だよ。」

と伝えていた。

 

 

遡ること 半年。

ある日曜日の昼下がり、
サキは 一つ年上の
会社の先輩女子と
太田の北口駅前にある

「美術館・図書館」内のカフェで
コーヒーを飲んでいた。

その店に
居合わせたのが
彼だった。

先輩と彼は 高校の同級生で
会うのは卒業して以来 だという。

その時は、本当にそれだけ。

 

自分たちの席に 招き入れたりすることもなく
「会えて嬉しかった。
また、どこかでね!」と 先輩は言い、
サキ も 軽く会釈をした。


 

「好みのタイプかも」

そう思った。

本当に またどこかで会えたらいいのに。
でも、そんな漫画やドラマのようなこと
あるはずもないしね。


「あるはずは ない? 本当に?」

サキは
「偶然は 自分で作るもの」
という 持論を持っている。

「偶然を装って 帰り道で待つ」などという

シティポップの
歌詞みたいなことをするのを
至極、得意としているのだ。


調査によると
(正しくは サキの聞き込み調査によると)

 

その時点では、
彼には決まったパートナーが
いないようだった。

サキにもいない。

「なんて、ラッキーなの!」
心が小躍りした。

 

 

そんなこんな で、
トントン拍子で
付き合うことに なっていくのだから
レンアイって不思議だ。


 

彼はサキのことを

とても 大切にしてくれている。

と、思う。

 

 

贈り物、
例えば誕生日プレゼントなども
すごく喜んでくれる。

 

 

「髪 染めたの? 綺麗な色だね」とか
「今日のワンピース、
シックで サキちゃんによく似合ってる」とか
いちいち褒めてくれるところも

好きだった。


無関心なやつが 多いというのに
なんて 理想的な人なの!

 

そう思っていた。



けれど、

 

褒め方や
喜び方が
あまりにも
大げさすぎて

徐々に

 辟易していったことは
隠せない事実だ。

 

「とても素敵だよ」ではなく
「ちょっと、これはないんじゃない?」

って、言わせてみたい。

サキ は  強く思うように なっていた。

 



バレンタインデーに

贈ってみよう。
と、

企んでいたものがある。


それは
サキが 中学生の時に着ていた
薄緑色の [ジャージの上下] だ。

かなり 着古されている。
けれど、きちんと洗濯をしたし
汚いイメージでは ないはずだ。


とはいえ、
「そのまま というのも、どうかなぁ」
と思ったので

右胸の 学校名の刺繍の横に
ある文字を 足してみた。

もちろん、刺繍で。
丁寧に。

 

 

よし、

これで
いかにも手作り!
という風に なったはず。

これは、
ある意味「賭け」だ。


「センスのいいプレゼント、
ありがとうねサキちゃん」

 

そんなセリフが
どうか、どうか
彼の口から 出てきませんように。


 

サキは 
その 刺繍された名前を
心のなかで 何度も繰り返してみる。


「宝泉ヒッピー」

 

結構 いいでしょう?


響きだけは。

 

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 [第3話] 戦うって誰とだ? (アラタのエピソード2)



「転勤が決まったよ。
太田支店に行くことになった。

アラタはどうする?」

 

父親に そう言われたのは
高2の夏の ことだった。

一緒に来るかって?


一人で暮らせって言われても
そんな面倒なこと
できる訳ないじゃないか。
都心から離れてるとはいえ
この東京で。

 

 

彼女がいて
友達も多くて

バンドやってて

部活でも 活躍してる。

そんな
リア充な日々を送る高校生とは
わけが違うんだ。


帰宅すれば  ゲームに明け暮れ
自分の部屋で 食事をする。

 

そんな息子が どう答えるか。
ま、わかってるからこその
質問だったとは 思うけどね。

ところで、
太田って どこにあるんだ?

群馬県?
ま、いいや。
どこにいたって同じなんだから。

 

全然、構いやしない。

 

夏休みに入ってすぐ、
アラタたち一家は
昭島市から 太田市へと
引っ越しをした。


「高原が多くて 涼しいところ」
の、はずだった。

「イメージ」って怖いね。
どんなものにも化ける。

 

ここは、高原でもなんでもない。

 

日本一暑いかもしれない、

恐ろしい場所だということが
すぐにわかった。


「何もしなくても汗が吹き出すって
こういうことを言うんだな」

 

住まいは、
父親の会社が借り上げたもので
とりあえず、一軒家だった。

自分の部屋と、
小学生の弟の部屋は
確保されたようなので

とにかく エアコンで
部屋を ギンギンに冷やすところから 始めた。

環境が変わっても
休まずやらなくてはいけない
大事なことが、あったから。

 

言っておくけど
ただ、ゲームに明け暮れているわけでは
決してない。
ないんだよ。

 

小説っていうものを
アラタは書いていた。

小5の時からだから、
もう6年くらいになるだろうか。

 

 


:::::::::::::

 

核戦争後の地球。
大陸は 全て海に沈み
日本という島国だけが
奇跡的に残る。


もちろん、
全ての人間が
生き残ったわけではない。

選ばれし者たちだけが
地球のため 戦うために残った。



戦う?
誰と?
エイリアン、それともウイルス?

選ばれしものって何なんだ?

 

:::::::::::::::

 

ま、その先は
おいおい考えるとするかな。

要するに、
何も決まっちゃ いないのさ。


 

いや、

決まっていることが
一つだけあったな。

 

 

それは、
地球のために戦う
チームの名前。

 

 

「宝泉ヒッピー」

それだけさ。

 

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 [第4話] リアルじゃない思い出(サキのエピソード2)

 

約束の6時を30分過ぎても、
一向に姿を現さないアラタ。

 

Lineも「既読」にならないし、
一体どうしたと

いうのだろう。

「約束の時間に遅れることなんか

ほとんど なかったのに」

仕事がまだ終わらないのかも、と
サキは思った。


金曜日 ということもあり、
普段は閑散とした 太田の街も
今夜は幾分 賑やかだ。


北口駅前に 停車したまま
長い時間いるのも
どうか と思ったので

すぐ近くにある
「パニーニの店」で
待つことにした。


「もう、先に何か食べちゃうからね」と

心の中でつぶやきながらも

カフェラテだけ、注文した。

 

 

この店は2階にあるので、
大きめの窓から 通りの様子がよく見える。

 

申し訳なさそうに
小走りでやってくる アラタの姿も、
ここだったら
確認ができそうだ。

 

 

サキはここ

太田で生まれ
太田で育った。

専門学校に通う2年間だけは
町を離れたが
それ以外は、ずっと太田だ。


友人に「どんなところなの?」と訊かれると
決まって、
「何にもないところだよ」

そう答えた。

 

 

太田の街の主力は「自動車産業」だ。

大きな車メーカーが中心となり、
その系列企業も多く存在する。

父も母も、そして兄も
関連会社で仕事をしている。


華やかでもないし、
かといって
自然が多いわけでもない。

 

 

「何もないところ」と表現してしまうのも
仕方のないことかもしれない。



そんな町で育ったサキは
一体、どんな子どもだったのだろう。

 

実を言うと
子どもの時の記憶が あまりなかった。

 

両親がよく
写真を撮ってくれていたようで
アルバムは何冊かある。


海や山に出かけた時のものや
大きなケーキと撮った
バースデーの写真。

 

入学式や運動会などなど。

イベントごとは一通り
アルバムの中に残されている。

なのに、なぜだろう。

全てがリアルじゃない。

鮮明な「思い出」ってヤツが
浮かんでこないのだ。

 


サキは、
2
杯目のドリンク
=ルイボスティーを注文すると
スマホで連絡するため、

一度 屋外へ出た。


「あー、本当にどうしちゃったの!?」

約束から1時間を過ぎると、
さすがに心配になる。

 

繋がらない電話。
既読にならないLine


お店の自分の席に置きっ放しの
トートバッグの中身のことを思う。


本当に今夜、
渡せるのだろうか。

 

薄緑色のジャージ、

 

 

「宝泉ヒッピー」を。

 

 

 

 

 

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 [第5話]  選ばれしものじゃなくていい(アラタのエピソード3)



選ばれしもの
だったのか、自分は。

常に客観的に見てたから
そんなこと 考えてみたこともなかった。

それに 今着ているのは
明らかに 中学生のジャージだ。

少なくとも
「地球のために戦う者」が
着るべきものじゃあない。



エヴァやガンダムの中で

隊員が身にまとう戦闘服。
少なくとも、自分はそういうものを
イメージして書いていたはずだ。

「これ、違ってる!
作り直してくれ!」

と、つい大きな声を出しそうになる。


待てよ。
今、誰に対して 声をあげようとした?

俺は 何をしようとしている? 

アラタは混乱していた。


昭島東小5年生の時から

太田に引っ越すことになる
2の夏まで書いていた
あの「小説」。

今おかれている状況は
あのストーリーと
似すぎている。



この話がいつか
映画化されるとして、だ。
たとえば 衣裳だって
自分が決めたかった。

原作者であり
監督なんだから。


 

正直なところ
物語の内容については
あまり 覚えてはいなかった。

引っ越しをした頃を境に
ほとんど 書かなくなってしまったから。



今、こんな風に
自分がいる情景を 顧みることで
そんな 小説を書いていたな、と

思い出す程度だ。


「そこの方、受付はもう済んだのですか?」

くだんの係員に
また 呼び止められた。

さっきよりもずっと
険しい表情になっている、

ような気がする。



「早くしろってことか。
わかったよ!」

 

 

 

 

小説のタイトル
結局どうしたんだっけ。

指示された場所に向かいながら
アラタは考えていた。

 

「宝泉ヒッピー」に
したような気がするな。

でも、どうして 宝泉ヒッピーだったんだろう。

ほとんど 思いつきで決めた名前だし
理由は 自分にもわからない。

 

 

 

「ちゃんと 覚えておくべきだったな」

このような 状況に置かれてみて
初めて そう思った。

この話、次にどうなる?
どうなっていくんだっけ?


覚えていたら 対処のしようも
あった だろうに。

 

 

太田北口駅前  午後6時。
サキはまだいるのだろうか。

そういえば、

何かプレゼントしてくれるって
言ってたよな。

 

 

 

 

「受付が済んだら、
こちらの機に乗ってください!」

と、荒だった係員の声が響いている。


 本当に戦いに出るというのか。



 

  

 

どんな結末になっても
それはどうでもいい。

とにかく
早く終わらせたいんだ、
この状況を。

終わらせて
待ち合わせの場所に 行きたいんだ。


  

 

お願いだから覚めてくれ。

 

 

宝泉ヒッピーという名の
(多分悪い)夢は
もう、
見ていたくない。



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第6話  見知らぬ彼女 (サキのEP3)

「サキさ〜ん、サキさんってば!」
誰かが呼ぶ声がする。

振り向くと、
若い女性の顔が視界に入る。

だれ?

 

 

 

「いつになっても来ないんだもの。
サキさんを置いて  一人で行っちゃうとこでしたよ」

私の腕を掴むと、
引っ張るようにして 誘導する
「見知らぬ彼女」

ちょっと待って。

バッグやスマホは
このビルの2階にある
「パニーニの店」に置いたままだし、

取りに戻らなきゃ。

 

いやいや、
それ以前の問題として

あなたのこと
知らない。

ほんと、
だれなの?

「サキさん、大丈夫ですか?
しっかりしてくださいよ〜」

よほど、
うろたえているように 見えるのか

たしなめられた。

見知らぬ彼女に。

 



今いる場所
そう、ここから太田駅までは

歩いて5分とかからない。

決して大きな駅ではないから

静かなものだけど、

それでも 金曜の夜の「音」は

ガタンゴトン騒がしい。




本当だったら、

今頃 アラタと二人

食事をしていたはずだ。

「どこで、食べる?」

一応、アラタに問いかけは
するのだけど
行く店は もう 決まっていた。


「サキちゃんの 好きなものでいいよ 」


絶対、そう言うに決まっている。


「いいの? 本当にいいの?」

と喜んでみる私。



ふふふ。
茶番だな、全く。

 


そんな会話を
想像しながら

 

どうしたんだろう
涙がこぼれた。


「もう、会えないんじゃないかな」

サキは
なぜか
そう思った。

「ところで、あなたの名前はなんていうの?」

  見知らぬ女性に訊いてみる。

名前がわからないと、声もかけづらい。

「やだなぁ、本当に忘れちゃったんですか?
ミヒマリですよ、 ミ、 ヒ、 マ 、リ 」

いや、
これは分かっても
 
声がかけづらい。

変わった名前だ。

 

 

 

「では、行きましょう。

みんな、待っていますよ」

パニーニの店のあるビルの
小さなエレベータ。

ミヒマリは 私をそこへ押し込めると
行き先階ボタンを押した。


B 77


は ?

地下77階 ??


え? どういうこと?

 

どこへ連れて行くというの?



ゆっくり

ゆっくり降りてゆく
近代的とは言えない
エレベーターの中で


サキは
払っても払っても
消えない

かなりの数で
襲ってくる
「クエスチョン」っていうヤツと

格闘していた。

 

 

 

 

 ショートショート
「宝泉ヒッピー」


作: togetu nashika