宝泉ヒッピー☆太田が舞台の物語

きっと誰かが いたずらに綴る
嘘だらけの シナリオ

宝泉ヒッピーエンドロールゆらゆら.jpg

8/20 最終話をアップしました!
ぜひ、1話〜11話通してお読みください。

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「宝泉ヒッピー」は

ヒノデカニのインスタライブ
=カニスタライブの企画で
製作している小説です。
(生放送内で朗読)


放送済みの物語は
こちらにストックしています。

「カニスタライブ」は
3週間おきの土曜日の21:30より
Instagramで放送しているので
ぜひ聴いて視てくださいね!
[アーカイブもございます]

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宝泉ヒッピー

■第1話    薄緑色のジャージ(アラタのEP1)   
■第2話    偶然は自分で作る (サキのEP1)
■第3話    戦うって誰とだ? (アラタのEP2)
■第4話    リアルじゃない思い出 (サキのEP2)
■第5話    選ばしものじゃなくていい(アラタのEP3)
■第6話    見知らぬ彼女 (サキのEP3)
■第7話    夢の人(サキとアラタのEP4) 
■第8話    標的はどこだ!?(サキとアラタのEP5)
■第9話    鈍色の世界 (サキとアラタのEP6) 
■第10話  アラタだけが現実 (サキとアラタのEP7)
■最終話   シナリオの在り処 (サキとアラタのEP8)


太田の街を舞台に展開される物語です
主人公は、サキとアラタ。
太田市美術館・図書館 細谷駅 太田駅北口 などが登場します!

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[第1話] 薄緑色のジャージ(アラタのエピソード1)

 

「こっちですよー。
ここに2列に並んでー」

 

見知らぬ男が 叫んでいる。

それに従い、列を作るのは

薄緑色の ジャージを着た人たち。


 「一体何者なんだ、こいつらは」

と、
他人のことのように

つぶやいてみるけれど

薄緑色の ジャージを着ているのは
自分だって 同じじゃないか。


そうなんだ。

いつもと変わらない 朝だった。

いや、まるっきり変わらない
ってわけじゃないかな?

 

母親が珍しく用意してくれた朝食。

でも、それを 断った。

「ごめん!朝食はいらないよ。
細谷の駅まで自転車で行くから。
いつもより 早く出なきゃ
いけないんだ」

アラタの職場は
太田駅に ほど近い場所にある。
いつもは、自宅から車で通っている。
そのため、
通勤に 東武線を使うことは
ほとんど ない。


仕事が終わったら、
彼女と会う約束をしていた。

太田駅の北口で 午後6時。

どうやら、
買ったばかりの車を
見せびらかしたい らしい。

彼女の車の助手席は

居心地がいいとは
決して 言えないんだけどね。

意外と 強引な運転で
ハラハラさせられるから。


ま、いいや。

一緒にいられることが 嬉しいことには

違いは ないんだからさ。

アラタは
にやけた顔で 自転車をこぐ
自分を想像した。

なんだか、急に恥ずかしくなる。

 

 

と、まあ
そんなことをあれこれ思いながら
自転車をこいでいた。

いや、
そのはずだった。


 

 

それからの記憶が どこにもない。
まったく 見当たらないんだ。

事故にでもあったのか?
うーん、
怪我をしているわけじゃ ないようだな。


 

今、何時だ?
そして、
ここはどこ?

薄緑色の ジャージを着た人たちの数が
さっきよりも 増えたような気がした。

ざっと 数えて 100人くらい

という感じだろうか。

 

 

「はーい、列を乱さずに ゆっくり進んでください。
もうすぐ受付が 始まりますよー」

と、さっきの 係員とおぼしき男性の声。

 

 

受付って何?
なんなんだよ!

 

腹減ったなー。

朝めし、
やっぱり食べてくるべき
だったよなー。

 

何気なく
隣の人が着ている ジャージの

右胸の文字に
目をやる。


アラタは
自分の目を疑った。

 

え?
嘘だろう。
一体、なんで!?。



右胸のプリントの文字。

いや、よく見ると
プリントではなく
きちんと刺繍が 施されている。

 それは

「宝泉ヒッピー」
という文字だった。

 

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 [第2話] 偶然は自分で作る(サキのエピソード1)

 

サキは
バックミラーに映った
自分の顔を 覗き込んだ。

これから、
ある犯行に
臨もうとしている自分が
ここにいる。

いや、
実際は そんなに大それた事を

するわけじゃ ないのだけど。

通報されてもおかしくない
そんな顔になってやしないか
少しだけ心配になって
もう一度、鏡を覗き込む。


サキには
ひとつ年上の彼氏がいる。
「偶然」ってやつが、
どこからか 連れてきて
付き合うことになった人だ。

その彼と
今夜 会う約束をしている。

「車で迎えに行くから、
通勤は電車にしてね。
北口駅前に6時だよ。」

と伝えていた。

 

 

遡ること 半年。

ある日曜日の昼下がり、
サキは 一つ年上の
会社の先輩女子と
太田の北口駅前にある

「美術館・図書館」内のカフェで
コーヒーを飲んでいた。

その店に
居合わせたのが
彼だった。

先輩と彼は 高校の同級生で
会うのは卒業して以来 だという。

その時は、本当にそれだけ。

 

自分たちの席に 招き入れたりすることもなく
「会えて嬉しかった。
また、どこかでね!」と 先輩は言い、
それに合わせ、
サキも軽く会釈をした。


 「好みのタイプかも」

そう思った。

本当に またどこかで会えたらいいのに。
でも、そんな漫画やドラマのようなこと
あるはずもないしね。


「あるはずは ない? 本当に?」

サキには
「偶然は 自分で作るもの」
という 持論がある。

「偶然を装って 帰り道で待つ」などという

シティポップの
歌詞みたいなことをするのを
至極、得意としているのだ。


調査によると
(正しくは サキの聞き込み調査によると)

 

その時点では、
彼には決まったパートナーが
いないようだった。

サキにもいない。

「なんて、ラッキーなの!」
心が小躍りした。

 

 

そんなこんな で、
トントン拍子で
付き合うことに なっていくのだから
レンアイって不思議だ。


 

彼はサキのことを

とても 大切にしてくれている。

と、思う。

 

 

贈り物、
例えば誕生日プレゼントなども
すごく喜んでくれる。

 

 

「髪 染めたの? 綺麗な色だね」とか
「今日のワンピース、
シックで サキちゃんによく似合ってる」とか
いちいち褒めてくれるところも

好きだった。


付き合っていても
無関心なやつが 多いというのに
なんて 理想的な人なの!

 

そう思っていた。



けれど、

 

褒め方や
喜び方が
あまりにも
大げさすぎて

徐々に

辟易していったことは
隠せない事実だ。

 

「とても素敵だよ」ではなく
「ちょっと、これはないんじゃない?」

って、言わせてみたい。

サキ は  強く思うように なっていた。

 


実は、

今度会うときに

プレゼントしてみよう
と、

企んでいたものがある。


それは
サキが 中学生の時に着ていた
薄緑色の [ジャージの上下] だ。

かなり 着古されている。
けれど、きちんと洗濯をしたし
汚いイメージでは ないはずだ。


とはいえ、
「そのまま というのも、どうかなぁ」
と思ったので

右胸の 学校名の刺繍の横に
ある文字を 足してみた。

もちろん、刺繍で。
丁寧に。

 

 

よし、

これで
いかにも手作り!
という風に なったはず。

これは、
ある意味「賭け」だ。


「センスのいいプレゼント、
ありがとうねサキちゃん」

 

そんなセリフが
どうか、どうか
彼の口から 出てきませんように。


 

サキは 
その 刺繍された名前を
心のなかで 何度も繰り返してみる。


「宝泉ヒッピー」

 

結構 いいでしょう?


響きだけは。

 

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 [第3話] 戦うって誰とだ? (アラタのエピソード2)



「転勤が決まったよ。
太田支店に行くことになった。

アラタはどうする?」

 

父親に そう言われたのは
高2の夏の ことだった。

一緒に来るかって?


一人で暮らせって言われても
そんな面倒なこと
できる訳ないじゃないか。
都心から離れてるとはいえ
この東京で。

 

 

彼女がいて
友達も多くて

バンドやってて

部活でも 活躍してる。

そんな
リア充な日々を送る高校生とは
わけが違うんだ。


帰宅すると  ゲームに明け暮れ
自分の部屋で 食事をする。

 

そんな息子が どう答えるか。
ま、わかってるからこその
質問だったとは 思うけどね。

ところで、
太田って どこにあるんだ?

群馬県?
ま、いいや。
どこにいたって同じなんだから。

 

全然、構いやしない。

 

夏休みに入ってすぐ、
アラタたち一家は
昭島市から 太田市へと
引っ越しをした。


「高原が多くて 涼しいところ」
の、はずだった。

「イメージ」って怖いね。
どんなものにも化ける。

 

ここは、高原でもなんでもない。

 

日本一暑いかもしれない、

恐ろしい場所だということが
すぐにわかった。


「何もしなくても汗が吹き出すって
こういうことを言うんだな」

 

住まいは、
父親の会社が借り上げたもので
とりあえず、一軒家だった。

自分の部屋と、
小学生の弟の部屋は
確保されたようなので

とにかく エアコンで
部屋を ギンギンに冷やすところから 始めた。

環境が変わっても
休まずやらなくてはいけない
大事なことが、あったから。

 

言っておくけど
ただ、ゲームに明け暮れているわけでは
決してない。
ないんだよ。

 

小説っていうものを
アラタは書いていた。

小5の時からだから、
もう6年くらいになるだろうか。

 

 


:::::::::::::

 

核戦争後の地球。
大陸は 全て海に沈み
日本という島国だけが
奇跡的に残る。


もちろん、
全ての人間が
生き残ったわけではない。

選ばれし者たちだけが
地球のため 戦うために残った。

 

::::::::::::::::

 

戦う?
誰と?
エイリアン、それともウイルス?

選ばれしものって何なんだ?

 

 

 ま、その先は
おいおい考えるとするかな。

要するに、
何も決まっちゃ いないのさ。


 

いや、

決まっていることが
一つだけあったな。

 

 

それは、
地球のために戦う
チームの名前。

 

 

「宝泉ヒッピー」

それだけさ。

 

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 [第4話] リアルじゃない思い出(サキのエピソード2)

 

約束の6時を30分過ぎても、
一向に姿を現さないアラタ。

 

Lineも「既読」にならないし、
一体どうしたと

いうのだろう。

「約束の時間に遅れることなんか

ほとんど なかったのに」

仕事がまだ終わらないのかも、と
サキは思った。


金曜日 ということもあり、
普段は閑散とした 太田の街も
今夜は幾分 賑やかだ。


北口駅前に 停車したまま
長い時間いるのも
どうか と思ったので

すぐ近くにある
「パニーニ」の美味しいカフェで
待つことにした。


「もう、先に何か食べちゃうからね」と

心の中でつぶやきながらも

カフェラテだけ、注文した。

 

 

この店は2階にあるので、
大きめの窓から 通りの様子がよく見える。

 

申し訳なさそうに
小走りでやってくる アラタの姿も、
ここだったら
確認ができそうだ。

 

 

サキはここ

太田で生まれ
太田で育った。

専門学校に通う2年間だけは
町を離れたが
それ以外は、ずっと太田だ。


友人に「どんなところなの?」と訊かれると
決まって、
「何にもないところだよ」

そう答えた。

 

 

太田の街の主力は「自動車産業」だ。

大きな車メーカーが中心となり、
その系列企業も多く存在する。

父も母も、
関連会社で仕事をしている。


華やかでもないし、
かといって
自然が多いわけでもない。

 

 

「何もないところ」と表現してしまうのも
仕方のないことかもしれない。



そんな町で育ったサキは
一体、どんな子どもだったのだろう。

 

実を言うと
子どもの時の記憶が あまりなかった。

 両親がよく
写真を撮ってくれていたようで
アルバムは何冊かある。


海や山に出かけた時のものや
大きなケーキと撮った
バースデーの写真。

 

入学式や運動会などなど。

イベントごとは一通り
アルバムの中に残されている。

なのに、なぜだろう。

全てがリアルじゃない。

鮮明な「思い出」ってヤツが
浮かんでこないのだ。

 

 

 サキは、
2
杯目のドリンク
=ルイボスティーを注文すると
Lineを見るために

一度 屋外へ出た。


「あー、本当にどうしちゃったの!?」

約束から1時間を過ぎると、
さすがに心配になる。

 

繋がらない電話。
既読にならないLine


お店の自分の席に置きっ放しの
トートバッグの中身のことを思う。


本当に今夜、
渡せるのだろうか。

 

薄緑色のジャージ、

 

 

「宝泉ヒッピー」を。

 

 

 

 

 

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 [第5話]  選ばれしものじゃなくていい(アラタのエピソード3)



選ばれしもの
だったのか?自分は。

常に客観的に見てたから
そんなこと 考えてみたこともなかった。

それに 今着ているのは
明らかに 中学生のジャージだ。

少なくとも
「地球のために戦う者」が
着るべきものじゃあない。



エヴァやガンダムの中で

隊員が身にまとう戦闘服。
少なくとも、自分はそういうものを
イメージして書いていたはずだ。

「これ、違ってる!
作り直してくれ!」

と、つい大きな声を出しそうになる。


待てよ。
今、誰に対して 声をあげようとした?

俺は 何をしようとしている? 

アラタは混乱していた。


昭島東小5年生の時から

太田に引っ越すことになる
2の夏まで書いていた
あの「小説」。

今おかれている状況は
あのストーリーと
似すぎている。



この話がいつか
映画化されるとして、だ。
たとえば 衣裳だって
自分が決めたかった。

原作者であり
監督なんだから。


 

正直なところ
物語の内容については
あまり 覚えてはいなかった。

引っ越しをした頃を境に
ほとんど 書かなくなってしまったから。



今、こんな風に
自分がいる情景を 顧みることで
そんな 小説を書いていたな、と

思い出す程度だ。


「そこの方、受付はもう済んだのですか?」

くだんの係員に
また 呼び止められた。

さっきよりもずっと
険しい表情になっている、

ような気がする。



「早くしろってことか。
わかったよ!」

 

 

 

 

小説のタイトル
結局どうしたんだっけ。

指示された場所に向かいながら
アラタは考えていた。

 

「宝泉ヒッピー」に
したような気がするな。

でも、どうして 宝泉ヒッピーだったんだろう。

ほとんど 思いつきで決めた名前だし
理由は 自分にもわからない。

 

 

 

「ちゃんと 覚えておくべきだったな」

このような 状況に置かれてみて
初めて そう思った。

この話、次にどうなる?
どうなっていくんだっけ?


覚えていたら 対処のしようが
あったかもしれないのに。

 

 

太田北口駅前  午後6時。
サキはまだいるのだろうか。

そういえば、

何かプレゼントしてくれるって
言ってたよな。

 

 

 

 

「受付が済んだら、
こちらの機に乗ってください!」

と、荒だった係員の声が響いている。


 本当に戦いに出るというのか。



 

  

 

どんな結末になっても
それはどうでもいい。

とにかく
早く終わらせたいんだ、
この状況を。

終わらせて
待ち合わせの場所に 行きたいんだ。


  

 

お願いだから覚めてくれ。

 

 

宝泉ヒッピーという名の
(多分悪い)夢は
もう、
見ていたくない。



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第6話  見知らぬ彼女 (サキのEP3)

「サキさ〜ん、サキさんってば!」
誰かが呼ぶ声がする。

振り向くと、
若い女性の顔が視界に入る。

だれ?

 

 

 

「いつになっても来ないんだもの。
サキさんを置いて  一人で行っちゃうとこでしたよ」

私の腕を掴むと、
引っ張るようにして 誘導する
「見知らぬ彼女」

ちょっと待って。

バッグやスマホは
このビルの2階にある
「パニーニの店」に置いたままだし、

取りに戻らなきゃ。

 

いやいや、
それ以前の問題として

あなたのこと
知らない。

本当に
だれなの?

「サキさん、大丈夫ですか?
しっかりしてくださいよ〜」

よほど、
うろたえているように 見えるのか

たしなめられた。

見知らぬ彼女に。

 



今いる場所
そう、ここから太田駅までは

歩いて5分とかからない。

決して大きな駅ではないから

静かなものだけど、

それでも 金曜の夜の「音」は

ガタンゴトン騒がしい。



本当だったら、

今頃 アラタと二人

食事をしていたはずだ。

「どこで、食べる?」

一応、アラタに問いかけは
するのだけど
行く店は もう 決まっていた。


「サキちゃんの 好きなものでいいよ 」


絶対、そう言うに決まっている。


「いいの? 本当にいいの?」

と喜んでみる私。



ふふふ。
茶番だな、全く。

 


そんな会話を
想像しながら

 

どうしたんだろう
涙がこぼれた。


「もう、会えないんじゃないかな」

サキは
なぜか
そう思った。

 

 

「ところで、あなたの名前はなんていうの?」
見知らぬ女性に訊いてみる。
名前がわからないと、声もかけづらい。

「やだなぁ、本当に忘れちゃったんですか?
ミヒマリですよ、 ミ、 ヒ、 マ 、リ 」

 

 

変わった名前。。
いや、
これは分かっても
 
声がかけづらいな。


 

 

 

「では、行きましょう。

みんな、待っていますよ」

さっきまでいた店がある
ビルに設置された
小さなエレベーター。

 

「ん?エレベーターなんか
あったっけ?」と、

 

疑問に思う時間さえ与えず
サキをそこへ押し込めると
ミヒマリは
行き先階ボタンを押した。



B 77


は ?

地下77階 ??


え? どういうこと?

 

どこへ連れて行くというの?



ゆっくり

ゆっくり降りてゆく
近代的とは言えない
エレベーターの中で


サキは
払っても払っても
消えない

かなりの数で
襲ってくる
「クエスチョン」っていうヤツと

格闘していた。

 

 

 

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第7話  夢の人 

 (サキとアラタのEP4)

 

「パパ、見て見て!

あたし、お姫様みたいでしょ?」

裾にフリルがついた

ワンピースを着て、
上機嫌のサキは

リビングのソファに腰掛け
新聞を読む父親に こう言った。


「ね、 かわいいでしょ?」
 
サキの声など聞こえていない
とでもいうように
ただただ
新聞を読み続ける父親。

 

「パパ、サキの方を見てってば」

ねぇ、
パパ。

パ  パ?

 



あ、私
夢を見ていたのか。

そうだ、今
エレベーターの中にいるんだった。

戸口に もたれかかり
一瞬だったにしても
眠ってしまったようだ。


何しろ、

行き先は 地下77階だからね。

この、超低速エレベーターでは
かなりの時間を要するだろう。



よく見る夢だった。

新聞に隠れている父の顔。
今だって、

結局見られなかったし
声を聞くこともできなかった。

いつ、見ても
何度、見ても。

同じ。

サキの部屋にある アルバムの中には

父と母と 一緒に写っている写真がある。

二人の顔が見たければ、
いや 確認したければ
アルバムを開けばいいのだ。

夢に出てくるのと
アルバムの中の人。

それが同一人物なのか
それすらわからないけれど。



「あれ?
一緒にエレベーターに乗った
ミヒマリ,,,だったけ?

ミヒマリはどこ?」

 

 

と、

 

次の瞬間だった。

サキは、立っていられないほどの
ひどい頭痛に見舞われた。


思い出ってやつが
廻っている。

クルクル
クルクル。


「ママのチーズケーキは
やっぱり美味しいね」

 

そう、本当に美味しかった。
最高の味だったのを知っているよ。

きっと、忘れない。


たとえ、その全てが
リアルじゃなかったとしても。


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薄緑色のジャージを
着た人たち。

その群れの一員となったアラタは
ククク と 笑った。

自分の書いた小説に中にいて

そして、そこから出られなくなるなんて。

これはもう、
笑うしかないじゃないか。

それにしても
もう少しマシな名前を
付けておけば よかったよな。

真剣な表情で 戦闘機に乗り込む
宝泉ヒッピーの 面々には
ちょっと申し訳ない気もする。


ま、
どんな名前だとしても
だんだん 愛着が湧いてくる
  って もんさ。


「宝泉ヒッピー」という名の小説。


それを書き始めた 小5の夏を
アラタは思い出していた。

クラスの補助担任は
4月に 新卒で赴任したばかりの
女の先生だった。


GReeeeN が好きで、
キセキ という歌を
よく口ずさんで いたっけ。

「先生、他にはどんな曲が好きなの?」
なんて、訊くことができたなら
毎日がもっともっと
楽しかったかもしれないね。

先生の名前、
なんて言ったっけ?

ええと、
ええと、

確か、南沢、、、


南沢  サキ  !


 

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第8話  標的はどこだ!? 

 (サキとアラタのEP8)

 

単調な毎日が、

カラフルに彩られる。

バックに流れるのは
GReeeeN
の 「キセキ」

先生が好きと言った、あの曲だ。

「ああ、何という幸せ!」

アラタは
上機嫌 だった。

 

                                

ところが、

一瞬で 灰色に変わった
アラタの
「バラに 囲まれた 日々」。



南沢サキ先生が
小学校を 辞めたのだ。


夏休みの間の 出来事なので
アラタが知るのは
9
1日の 始業式だった。
                                     

「嘘つき!
先生なんか 大嫌いだ!」

 

何が嘘だったのかは不明だが、、、

ま、
「嘘つき」というしかない
アラタの気持ちも
わからないでは ない。


 

とにかく、めちゃくちゃな話に したかった。

「悲惨な最期にしてやる!」
と、ペン先に 熱がこもった。


その場面を 想像するのも
恐ろしいほどだ。

 

 

 

 

そんな 理由から、
小説を書くことに 没頭することになる
5のアラタ。

                                                                         

 

けれど、

いつの間にか  熱は冷め
先生への 思いも、
そして
先生との 思い出も、
薄くなっていく。

他のどんな恋でも
こんなもの かも しれないけどね。


 

「趣味で小説書いてます」なんて
かっこつけて 言っていたが
そのあとの 5年間は
書いていないのと 同じだ。

 

 が、

 

自分が置かれている
この状況のおかげで

 

アラタは
ようやく思い出した。

 

自分が書いた物語。

その、内容の全てを!

 

 

 

 

 

緑色の ジャージを着た人たちの
列に加わった アラタ。

 

このままでは、
戦闘機に乗ることになる。

この戦いが 無意味なことは
アラタは 誰よりも わかっていた。

                                                                                                            

 

「サキちゃん、今どこにいる?」

 

聞こえないことはわかっていても

叫ぶしかない。

「頼む!!返事をしてくれ!!」

 

 

 

「え? 何か言った?」


地下77階へ向かう エレベーターの中で
サキは 誰かに 呼ばれたような 気がした。


「誰?」


「誰なの?」


やはり、気がしただけなのか、
返事はない。

 

 

 

もちろん、
「確信」とまでは いかないのだけれど
サキは 気づいていた。

常に 違和感を抱くこととなる
「リアルじゃない 思い出たち」

それが、
「作り物かもしれない」
と いうことを。

 

 

その証拠に
父や母の顔さえ
思い出せなく なっているじゃないか。

でも、これは決して
「諦めに似た感情」なんかじゃない。


 

 

自分で獲得した思い出が
「ここ」にあることを
知っているから。


「いちばん 大事な物は何なのか」
それに 気づいてしまったから。

 

 

 

 

 

「アラタ君!」

「アラタ君 なんでしょう!?」

 

 

 

                                 

                                     

 

薄緑色の ジャージ軍団が 集められ
隊長とおぼしき 人物からの
説明が 始まる。

それを 聞いて いるしかない アラタ。

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標的は「LEOレオ 77
そう、エルイーオー  ナナジュウナナ
これがチームの名前だ。

平和を望むようなフリをしているが
それはフリだけだ。

いいか、その容姿には 決して惑わされるな。

特に、注意してほしいのは
この、二つの 個体。

「ミヒマル レニハ」
そして、
「サウスバレー サキ」



宝泉ヒッピー
諸君の 健闘を 祈る。
                   

 

 

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[第9話] 鈍色の世界 (サキとアラタのEP6)

 

 

「ピーン」

到着を知らせる、
エレベーターの音がした。

太田駅からほど近いビルに
「地下77階」があるなんて、
誰が 信じるだろう。

 

外は真昼だった。 

多分。

 

なぜ、
自信なさそうに
「たぶん」を付けた かというと
久しぶりに見た 外の色が、
サキが知っている ものとは
明らかに 違っていたからだ。

「これが、鈍色にびいろの世界

一度入ったら出られない
灰色で固められた、悪夢のような場所。

遠い昔に 読んだ物語。
サキは それと重ねていた。

 

 

「戻らなきゃ!」

 

 

けれど、
振り返った先には
エレベーターはなく

代わりに、ミヒマリが立っていた。

 

「一体、どこにいたの?
一緒に乗ったよね?エレベーターに」

それには 応えようともせず、

これに着替えるようにと

目配せ する ミヒマリ。                      

 

手渡されたのは
桃色の ジャンプスーツだった。

ミヒマリ は、
既に、この服に 身を包んでいた。

「何これ、戦闘服なの?
これ着て戦うの?」

                     

 

実を言うと、
サキには察しがついていたんだ。

 

これから、待っていることが
どんなことなのか。                      

 

 

 

 

 

[地下77]に向かう エレベーターの中で
サキは 我に返った。


「思い出す?」
とは、ちょっと違うかもしれないが
他にいい言葉が 見当たらない。


とにかく、
気づいて しまったのだ。
疑問に思いながら
今まで  生きてきたこと。
その理由に。


この「箱」は
エレベーターという 名前ではあるけれど
現実に 引き戻すための
「箱」だったのかも しれない。


けれど、

ただ、ただ
認めたくなかったんだ。

                                         

 

 

 



サキは、
両親の愛情を いっぱいに注がれ
育ってきた。

娘に 甘いパパと
ケーキを焼いてくれる
やさしいママ。

アルバムの中には
写真がたくさんあるけれど
なぜだか「思い出」が 薄っぺらい。

そのことに
いつも 違和感を 抱きいだきながら
生きてきた。


「全然、リアルじゃない!」

 

当然だ。
作り物なんだから。


「あー、本当におかしい」
と、言いながら
 

サキは、泣き顔で 笑った。                                       

 

 

 

 それにしても、
誰が どんな目的で
企てたというのだろう。

 

 

 

 

 

 補助担任の先生を好きになった。
これは、アラタが 小5の時の話だ。


先生が 学校をやめてしまった時は
それはそれは悲しかったけれど
もちろん、
ずっと 泣いていたわけではない。



寂しさを紛らわすため

 

小説を書き始める。
そう、
アラタはアラタなりの
努力をしていたつもりだ。


そのストーリーには
先生と重ねた女性、
名前まで似た女性を
登場させてしまう。

でも、そのことが
「未来」で 、騒動を 起こすことになるなんて

一体、
誰が想像 しただろう。

 

 

 

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[第10話] アラタだけが現実   (サキとアラタのEP7)

 

「今、自分にできることってなんだ!?」

アラタは必死で考えていた。

 

 

「ミヒマリ レニハ」

そして

「サウスバレー サキ」


この二人に 限ったことではないが、
戦いなんて 誰とも 絶対にしてはいけない。


とにかく、
戦闘態勢に 入ることだけは
避けなければ。

 

意に反して、
事態は急激に 悪くなっていく。

尋常ではない 物々しさ、だ。


「そこ、何をしている!?
相手を倒すことだけを考えるんだ!
余計なことは考えるな!?」

気持ちがおぼつかず
列を乱している アラタに飛んでくるのは
隊長を 始めとする
「宝泉ヒッピー軍団 」からの
言葉の 総攻撃。

                                      


このままでは、本当に 戦争になってしまう。

「どうする? どうする? どうすればいい?」

 

アラタは 自分が書いた小説の中に

「サウスバレー サキ」という女性を登場させた。

この戦いでは、自分のチームが勝つのだから
「サウスバレー サキ」は消えてしまうことになる。

「先生のことを早く忘れてしまいたい」

そう願っていたアラタにとっては
「めでたし、めでたし」の結末だ。

小学生の子どもが書く小説なのだし
内容が曖昧でも、稚拙でも、
問題はない。

が、

今置かれているこの状況においては
問題がありすぎだ。

 

 

「自分は今、戦場に向かっている。
そして、

戦う相手の一人は、サウスバレー サキ」

という事実。

 

                                        

 

 

「アラタくん、どこにいるの?」


こんなに近いところにいるなんて
思いもしないサキは、
アラタのことだけを考え続けた。

 

 

ミヒマリから渡された

戦闘服と思われる服は、ダボダボしていた。

かっこ悪い。
こんな姿見せられないよ。


それでも、褒めてくれるんだろうな。
「サキちゃん、似合うね〜 」って。


父や母の顔は 思い出せなくてもいいけれど
アラタのことは、決して 忘れない。



サキにとっての「現実」はアラタだけだ。
それだけでいい。
アラタだけで、よかった。


「会いたい。早く会いたいよ」

 

                                         

 

 

 

 

 

「戦いはだめだ。絶対に止めなければ」

サキちゃんと戦う?

自分のせいで、サキちゃんが死んでしまう?

やめろ〜、マジでやめてくれ。



大体、
自分の書いた 小説の中で
赤の他人に 命令されるなんて、、、

おかしいじゃないか。



待てよ。

命令?


自分が書いた小説?

 


「そうか! そういうことか」


アラタは, 自分の周りをくまなく探し
筆記用具に できそうなものを
必死で かき集めた。

 

 

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[第11話] シナリオの在り処 (サキとアラタのEP8)

 

の地球人
薄緑色の軍団が
すぐそこまで 迫っている

 

笑っている場合では ないのだが
サキは 吹き出しそうになった。


軍団の着ている服が
サキが通っていた中学の体操着と
同じものだったから。


冗談みたいな本当の話は
さておき、


自分が「地球征服を企てた惑星」の
[
秘密諜報員] だということ。

地球征服が うまくいかない場合は
この場所で消される可能性が
あるということ。


全て ではないにしても
そのほとんどを
サキは思い出していた。

                                       

それにしても、
そんな 大切なことを 忘れるなんて。


地球での生活が
心地よすぎたせい なのか。

 


それに引き換え、

 

「しっかり任務を遂行していたのだから
すごいな、この子は」と、

後輩の背中を見つめながら、サキは思った。


 

その、ミヒマリが何か叫んでいる!

 

「サキ先輩、危ない!!

飛んできたミサイルが、
サキの目の前で爆発した。

 

 

 

「もう会えないのかも」
薄れゆく意識の中で
そんな台詞せりふ
また、頭をよぎった。

 

 

 

 

                                          

 

 

気がつくとサキは、病院のベッドにいた。


「南沢サキさん、お薬ここに置きますね」



担当の看護師が、
計り終えた体温計と交換に
いくつかの薬を置き
病室を後にした。

 

頭が少しだけ
ズキリとする。

けれど、
特に外傷はないようだ。


 

「ここ、太田なのね」

部屋の壁にかかっている

花の写真がデザインされたカレンダーに
[
太田記念病院]
病院名が 印刷されているのを見て、

サキはそう思った。

「ところで私、なぜここにいるんだろう」

思い出そうとすると、
ズキリとしそうだから
やめておいた方が良さそうだ。

                                  

 

 

結局、親や友人のことなどは
全て 忘れてしまったらしい。

アラタのこと以外は、
いや正確には、
アラタと過ごした日々以外は
全てだ。


 

 

「アラタくん、今どこにいるの?」

 

 

 

 

                                 




 

薄緑色のジャージを着た軍団「 宝泉ヒッピー 」と
地球征服のためやってきた「 LEOレオ 77 」の戦い。

この対戦により、
多くの犠牲者が出たこと。

「こんな戦いは無意味だ」と
どこかの惑星の偉い人が

唱えたことにより
[
宇宙規模的 争い ] が 完全に消滅したこと。

 

 

まるで、どこかのSF好きの小学生が
並べた言葉のようだけどね。

 

何度も言うようだけれど
サキは本当に何も
覚えていなかった。

アラタのことだけは
鮮明に思い出せるのだから
他はもう
どうでもいいことなのかも
しれないね。




                                

幸い、検査のための入院だったようで
すぐに退院することができた。

サキには、
どうしても行きたい場所、
行かなくてはならない場所がある。


それは、「太田駅の北口」だ。


 

金曜日の夜6時。
アラタとサキは
会う約束をしていた。

季節が変わっていたとしても、
時間は同じじゃなかったとしても、


とにかく、
約束だけは
果たさなければ
いけないんだ。

 

 

 

エントランスに並んだ
タクシーの一台に
サキは乗り込んだ。

わずかばかりの
身の回りの品物が入った
ボストンバッグと
クシャクシャになった
紙袋を下げて。



 

夏の日差しが、
刺さるように痛い。

日本一暑い
かもしれない 太田の街。

駅の出入り口付近 からは
ドライミストが噴霧ふんむされていた。


白く塗装された
鉄製のベンチに腰掛けて
その時を待っていた。

ここにいることを
誰かに指示されたわけでは
もちろん、ない。


「来なければいけない」
そう強く思ったから
今、ここにいるのだ。


 

 

何メートルか先に
人影が 確認できるのだけれど
ミストに遮られて
はっきりとは 見えない。


その人影は
ノートやら 鉛筆やら
たくさんの筆記用具を
大切そうに抱え
先の座るベンチに向かって
歩いていた。

 

 

 

息を飲む
サ、キ。



 

 

まやかしかもしれない。

夢なのかもわからない。

 

けれど、
この場面だけを信じたい。

 

 

 

 

 

 

 

 「やぁ、サキちゃん。
やっと会えたね」

 

 

 

 

                      

  

 

太田市が舞台の物語
「宝泉ヒッピー」


作:  nashika